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review:「SHOPPINGMALL」by小鉄

tofubeats「SHOPPINGMALL

 

何かあるようで何もないな?

 

 tofubeatsもリブログしていた都築恭一の郊外論は、中途までは「ふ~ん」と目を通していたが、地方で洗練されたクリエイティビティを追及するのを「暗い気持ちになるんだよな」と結ぶ段でバッキリ。そりゃおれも自然栽培のパン屋云々、アートで町おこし、イノベーション、地域プロジェクト、地方活性の類に何の面白みも感じていないし場合によってはハッキリとバカにしているが、「イオンと軽自動車とカラオケボックスみたいな」ものが豊かさの天井という環境で、実際に、ただ飯を食い、ただ息をし、ただ生きているこちらとしては「そういうものより田舎らしい文化のほうが部外者としては面白い」などと言われても、それは大層雅なことでございます、とイヤミの一つも言いたくなる。

文中にある通り、そりゃ全国津々浦々のヒップホップ・シーンの、東に西に南に北に耳を貸すべき佳作はいくつもある。しかし地方の若者のクリエイティビティが全部フリースタイル・ダンジョンに収斂されて行くことをおれは望まない。何がリアル何がリアルじゃないかそんなことだけで面白いか????面白くねーわ!!!!!!!!!

 

何かあるようで何もないな!!!

 

 昨年の冬に見たKohhのライブは面白かった。ライブ終盤のKohhのMC。細かい言い回しは違うかも知れないが、以下のような内容だった。「高知や徳島から来たお客さんもいると思いますが、ここ、香川……香川のお客さんどれくらいいます?」客席のほとんどが挙手。「その人たちに訊きたいんですけど、地元である香川……地元、香川が好きだぞっていう人……どれくらいいます?」客席から歓声。「俺の地元は王子っていう所なんですけど……俺は王子が好きです。俺の地元なんで……皆さんにとって、地元の香川が好きなように、俺にとっての地元の王子が俺は好きです」歓声。「こうやって日本全国周ったり、外国行ったりもするけど、好きな町は結局地元!」ここから『結局地元』を歌いだすKohh……というシーンが最も印象的だった。

 

 

 俺の地元が一番である。そして、他の地元の奴らにとっては、そいつの地元が一番だと思ってる。俺にとって、俺の地元が一番なように。昨年末、王子で行われたKohhのライブで、Kohhの地元の友達が「世界に一つだけの花」のカラオケを披露したことはこれと繋がっている。これマジ。

 

何かあるようで何もないな……

 

 ここ数年のヒップホップ・シーンを覆う巨大な暗雲としてのトラップ。その源流を辿れば90年代のアトランタやメンフィスのギャングスタ・ラップに行き付くが、あのBPM130前後(あるいは半分のBPM65前後)の奇妙なビートはなぜ生まれたのか?これは予想だが、一般的なBPM70~90前後のヒップホップのトラックに対して「もっとラップしたい、おれはまだまだ喋りたいことがあるんだよ」という欲望が、BPMを引き延ばし、1曲でラップの乗る容量を拡大したものがあのビートではないか。初期のThree 6 Mafia、Tommy Wright III‎やNiggaz Of Destructionなどの強迫的にビートの隙間に3連フロウでリリックを詰めるラップを聴くとそう思う。

 

 

 ところで……時計を現在に戻し、トラップ~ヒップホップの最先端のハイプであるマンブル・ラップ。Lil YachttyやYoung Thug、Rich Homie Quanなどを筆頭に、崩された発音、iPhoneマイクに話しかけるような鼻声歌唱、単調に繰り返されるフロウを特徴とする。彼らへの称賛、あるいは批判は、シーンの重要な転換期に居合わせる興奮とも、近ごろの若いもんは調の小言とも様々に噴出している。マンブルとは「もごもごした、不明瞭な」という意味らしいが、口語的には「喋っている意味が理解できない」というニュアンスが強いようだ(最近、法廷ものの海外ドラマをよく観ていて、この語がよく出てくる)。まだまだ喋れるぞ、という意志によってトラックが引き延ばされて余年、積極的に喋りたいことはいよいよもう何もなくなった……というのがおれの見立てだが、果たして?

 

 

何かあるようで何もないな。

 

 僕が初めて付き合った女性は、サブカルチャーやアートにまるで興味がない子で、ある時「私、これから生きてても、CDって10枚も買わないと思う」とニコニコしながらおれに言った。他にも、飲食店で流れているBGMについて「英語の歌って、自分のわからない話をずっとされてるみたいで不安になる」とも言っていた。彼女はまじめな倹約家で、地元のイオンで働いて得た収入のほとんどは貯金に回していた。彼女は30才までに子どもを産んで家庭を持つ夢を持っており、また、その夢から逆算して自分の人生をカウントしていた。それは29歳で妊娠、しばらくは夫婦二人の結婚生活を3~4年楽しむ、25歳で結婚、そのために22~3歳には結婚相手と出会って恋愛をしていて……というもので、おれはその計画の遠大さ、壮大さにめまいを起こしその場にブッ倒れた(今も起き上がれない)。

 

 彼女が夜番の仕事のときは、彼女のバイトする店(ワンオペだがあまり客は来ない)の閉店作業も手伝った。照明が落ち、すべての店舗に防犯用のネットがかけられ、エスカレーターも止まり、昼のにぎわいが嘘のように静かなイオンで、おれはたしかに、音のないテクノを聴き、音のないヒップホップを聴き、音のないヴェイパーウェイヴを聴きとった。それはshoppingmallに似ていた。

 

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