金色夜叉の可能性~吉岡里帆へ贈る#3
みなさん、「君が心にすみついた」ご覧になってましたか?自分は見てません!(笑)
しかし相変わらずの大人気な吉岡里帆さん。今年は映画「音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」が公開されることも決まり、本人もギターを練習、今年の春は外で演奏することを宣言していました
さて、歌といえば金色夜叉です。
新聞小説で連載されるやいなや話題となった「金色夜叉」は完結を待たず舞台化され、広く大衆に認知されていきました。その話題にのって今作は何度も歌の題材になり、歌われています。
そのうち、決定打となったのが大正七年、後藤紫雲・宮島郁芳という2人の演歌師によって作られた「金色夜叉」です
この曲はあまりにも有名で、現在でもある世代から上の人ならば口をついて歌える、というほどの知名度を得ています。というより、殆どの人の金色夜叉の知識は「ここ」と言っても良いと思います。初回でも述べた改造社の「日本文学全集」、後に円本と呼ばれるこの本が出版されるのが大正15年なので、殆どの人は尾崎の作品を劇かこの歌で認識していたといっても過言ではないでしょう。本来は話題作であったから作られた歌が逆に原作の世界観を決定づけてしまう。「シミュラークル」や「ポストモダン」「データベース」といった言葉を使うまでもなく、100年前の日本人すら、そういった現象は常に存在しています。
本作の歌詞は、地の文(文語体)と会話(口語体)の混合であった原作を大幅に改変し、シーンを熱海の海岸シーンに設定。歌詞を二番から貫一・お宮それぞれの会話文に構成し直しています。
1 (男女)
熱海の海岸散歩する
貫一お宮の二人連れ
共に歩むも今日限り
共に語るも今日限り
2 (男)
僕が学校おわるまで
何故に宮さん待たなんだ
夫に不足が出来たのか
さもなきゃお金が欲しいのか
3 (女)
夫に不足はないけれど
あなたを洋行さすがため
父母の教えに従いて
富山(とみやま)一家に嫁(かしず)かん
4 (男)
如何(いか)に宮さん貫一は
これでも一個の男子なり
理想の妻を金に替え
洋行するよな僕じゃない
5 (男)
宮さん必ず来年の
今月今夜のこの月は
僕の涙でくもらせて
見せるよ男子の意気地から
6 (女)
ダイヤモンドに目がくれて
乗ってはならぬ玉の輿(こし)
人は身持ちが第一よ
お金はこの世のまわりもの
7 (男女)
恋に破れし貫一は
すがるお宮をつきはなし
無念の涙はらはらと
残る渚に月淋し
この曲は、原作以上に多くの人々に伝播しました。そしてこの歌では原作とは違って語られていること、そしてだからこそなのですが、原作には書かれていなかった要素が加えられ、歌われています。例えばここでは歌は「二者間」の問答形式になっているために第三項であった富山忠継の存在がありません。まあ富山は原作でも影の薄い人物ではあるのですがさらに重要なのはこの一行です。
あなたを洋行さすがため
ここではお宮は、貫一の洋行つまり留学の資金援助のために富山へ嫁ぐことを選んだ、という言い訳をしています。
しかし、事実は違います。貫一の洋行はお宮の結婚を破断させてしまったお宮の父親から、そのお詫びといった形で提案されています。(6−2)洋行させるため、とは順序が逆です。
なぜそうなってしまったのか。それはこの歌が作られた大正という時代の影響があると私は考えます。一つは「恋愛観の変化」そして「経済の変化」次回はそれを追って説明する予定です。
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