村上春樹の100曲

https://www.youtube.com/watch?v=8JHBS2_lv40

 

これを聴くと、「ノルウェイの森」の冒頭で主人公の「僕」が聴いて涙を流したストリングスバージョンの「ノルウェーの森」はこんな感じだったのかななどと考える。

村上春樹についての本は数多い。それぞれの作品評はともかく、村上春樹の小説に出てくる料理本すら存在するのだから。

村上春樹の100曲」は以前出版された「村上春樹を音楽で読み解く」の換骨奪胎版。前著が「音楽を通して村上春樹の作品を解説する」という内容だったのに対し、「村上春樹の作品に登場する音楽を解説する」という転換がなされ、内容も新たに書き加わり、いわゆるディスクガイド本としても読めるようになっている。それは編著者である栗原裕一郎の他の本(「石原慎太郎を読んでみた」など)にも共通している体裁で、一冊のまとまりのある本としてと同時にどのページから開いても話を追えるような作りになっているのがありがたい。言及曲は親切な人がspotifyでプレイリスト化してくれているのでこちらでも聴くことができる。

大和田俊之、大谷能生鈴木淳史、藤井勉というジャンル別それぞれの評者の人選も確かで、面白いのはそれぞれの音楽を語りながらその内容が村上春樹の作品へとアナロジー的に発展していくところだ。シューベルト交響曲の中にある「日常の中の不穏さ」や、ブライアン・ウィルソンに対するシンパシー、ブルース・スプリングスティーンの葛藤など、そのまま春樹小説の解説になっており、それはいかに村上春樹の音楽への理解力と内面に音楽というのものが入り込んでいるか。そしてそれに対しどこまでも誠実に語っているか(登場人物全員の音楽観があまりにも作者の投影すぎる、と批判される程度には)という証拠だろう。

本書でも言及されている京都の立誠小学校で行われたレコード市に、当日自分も参加をしており、後に村上春樹もそこにいたことを知って驚いたことがある。そんな自分から、本書に言及されていない村上春樹と音楽について一つだけ。80年代以降の音楽、とくにヒットチャートの曲を基本的に毛嫌いする村上春樹が80年代当時に「wham!だけは時々聴く」という発言をしていたことがある(出典は失念。求む!)。もちろん戯れの一言ではあるのだけど、デッドプールがフェイバリットにあげるほど軽薄極まりないwham!の音楽からジョージ・マイケルの突出した才能とソロになってから現れる仄暗さを無意識に共感していた(明るいサーフロックだったビーチボーイズの中のブライアン・ウィルソンを発見したように)としたら非常に面白いと思うのだけど、これはちょっとした希望観測。