関西 in 仙台 第一回『堀江っぽいところ』byオノマトペ大臣

宮城・仙台の写真素材サイト せんぴく

GAGLEの新曲『千代』がリリースされ、同時に仙台市内で撮影されたMVが公開された。


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https://www.youtube.com/watch?v=Xp1juGfSw7M

流麗なストリングスとピアノ、タイトなドラムが良い塩梅で重なるトラックに、滑らかなラップが載せられ、そのリリックの端々には地形や歴史、行き交う人々の生活をさらりと描き切る技巧派の技が光る素晴らしい楽曲に仕上がっている。

仙台に転勤して10か月が経ち、今この曲のMVを見ていると、映る映像の約8割がどの場所で撮影されたものかが分かる。普段出勤で使う交差点、妻と夕食を食べた天ぷら屋、何度か足を運んだクラブ、各シーンに見覚えのある景色が並び、自分が生活を営む場が歌になり、ドラマの舞台として機能することに興奮を覚えずにはいられない。

仙台を示す形容の仕方で「コンパクトシティ」という言葉がよく使われる。狭い範囲で生活を完結することができるという主旨の言葉で、これまでも言葉自体は聞く機会があったが、仙台に住むことになりその良さについて、真に実感することとなった。ターミナル駅を基点として、職場と生活圏までの交通網による時間的な近さや、スーパーや役所など生活施設へのアクセスの利便性という一般的な観点もあるが、それだけでは無い、文化的な充足へのアクセスしやすさと、それに起因する精神的満足感を日々感じながら生活している。

仙台市は、仙台駅を中心として四方に広がっており、車で30分も走れば、海も山も、温泉街(秋保温泉)もある。北と東にアウトレットも2か所あり、世帯持ちの家庭が考える週末のレジャーには過不足なく、手軽にアクセスできる。

いわゆる都市機能(オフィス、商業地、繁華街)にフォーカスすると、仙台駅を中心として東西南北に延びる地下鉄でそれぞれ2駅程度。車で走ると10分くらいの範囲に都市が持つべき機能のほぼ全てが備わっている。

東北最大の都市であるだけあって、ちょっとした商店でもクオリティは高く、商業施設の多さに比例した健全な競争環境と、情報の集約による地域内での互いへの影響が感じられ、センスが磨かれ、前進する都市としての良い循環構造が築けているように見える。

特に、塩釜や閖上といった日本有数の漁港に近いことから来る鮮度の高い海鮮や、東北各地の名酒、銘柄牛など元々食材のポテンシャルが高いことで、飲食店のレベルは総じて高く、商店街のちょっとした店に飛び込みで入っても一定の満足感があり、味に比べて財布の中身が減らずに済むことは未だに新鮮な驚きを覚える。

たまたま転勤して、たまたま何年か住むだけの話ではあるが、ただ黙って通り過ぎるにはあまりも語るべきことが多い街であり、できればそこで感じた何者かを皆さんにも伝え、弱い関係性を結んでもらいたい。そう思い、関西出身の同世代(30代後半)の皆さんに向けて、「関西で言うと」どんな感じかということをお伝えしていきたい。なんで急に、関西なのか?ということだが、その理由としては ①関西ソーカルを主宰している ②関西出身なので関西との比較でしか街を見ることができない ③経営学の現役学生である という3点があげられる。

①②に関してはそのままの意味であるが、街自体にやんわりとした興味を持ち、何らかの自分なりの解釈を得たいと思うとき、一定範囲の一続きの店舗群を眺めると、どうしても「なんか北浜みたい」「十三の雰囲気」みたいなことを考えてしまう。北浜は北浜であって、その当てはめにより取り落とすものが多いことは理解するが、抽象化して自分のよく知ったものとの類似性を考え、ときに比較することで一旦結論を出してしまえる魅力は捨てがたい。限られた時間で、浅薄な知識の人間が、その地域と関係性を結ぶかどうかを判断するのには、この物差しは非常に便利だと感じる。きっと君もそうだろ?と共犯的な笑みを持って貴方にも提案したい。

③については、いま仕事の合間にビジネススクールに通っており、マーケティングの授業で対象は絞りに絞れ、そうじゃないと結局誰にも響かない、と言われているので、関西出身の俺みたいなやつに対象を絞って明確に球を放ることで、結果的に幾らかの人に意味のあるものとして最大限に響かせることを考えた。当然関西について少しでも知っている人や、たぶんそうじゃない人にも何らか感じるものがあるとは思うが。

そんなわけで、なぜか関西のワードが飛び出す仙台案内を始めていきたい。まず皆さんがもっとも気になる(?)、仙台に堀江はあるのか?問題について応えたいと思う。

堀江と言えば、元々は歴史ある家具街で、そこで培ったセンスの良さから派生して、いまは古着を中心とし、雑貨屋、個人経営の小洒落たカフェなども集まっており、揺るぎない地位を確立している関西屈指のオシャレエリアである。

結論から言うと、仙台にも堀江はあります!ただし、幾つかの地域に分散しており、もっと言えば、仙台駅周辺の商店街は全域的に薄めにそういう性格を帯びている。

実は仙台は90年代後半の古着ブームのとき、人口比率に対して古着屋の数が日本一と言われ、古着愛好家が多い。そもそもファッション自体への関心が高く、世界的ブランドであるマルジェラが黎明期の苦しい時期を仙台の高い売上で支えたという逸話まである。この当時は関西を代表するオシャレ雑誌カジカジにも、大阪の堀江、アメ村、東京の原宿、渋谷と並んで、なぜか仙台のスナップが良く掲載されていた。

20年以上の時を経て、仙台には古着の文化が確実に根付き、商店街メインストリートの大規模店舗から、裏路地二階の個人店、老舗から新しい店舗まで多数存在し、日常の光景として違和感なく溶け込んでいる。

そんな中で特に、旅行で来た関西人の皆さんに、この辺ディグったらどうですか?と言いたいのが添付した手書き地図のグラデーションのエリア「家具の街通り」周辺と、「肴町公園(~西公園)」周辺である。

まず「家具の街通り」であるが、名前が示す通り、この辺りは伝統的な家具の集積地帯で今でも多くの店舗で質の高い家具を購入することができる。恐らくそこから派生して、古着屋も違和感なく受け入れられて来たのではないか。この点は大阪の堀江と街の成り立ちが近いのではないかと推測できる。

またこの近隣には、専門学校や予備校が多く点在し、文化発展の重要なブースターの役割を担うセンス系の若者が多く、ビンテージからオリジナルまで様々な洋服を扱う古着屋が路面から古いマンションの一室まで三次元的に広がっている。

こんなことを書いておいて言うことでは無いが、自分はファッションのセンスが皆無なのでそれぞれの店舗の個性について分けて語ることは全くできないが、05年創業の「Utah(ユタ)」というお店は、仙台古着シーンではかなりの有名店で、近隣には、女性ものを扱う「イオリ」や、新品を扱う「ナリワイ」など別の店舗ラインもあり、この界隈で間違いなく重要な店舗の一つとなっている。

時折インスタグラムを活用した配信などでは、店員さんの知識を交えながら、季節の新しいラインナップが紹介されており、古着という文化では実は重要な要素なのだろうと思われる「深い知識」に裏打ちされた、面白さの現代的な伝播がなされている。

この地域には、個性的なカフェや、ドーナツ屋などがあり、有名な小料理居酒屋も多い(つるかめとか、玄孫とかめっちゃオススメ)ため、夕方~夜にかけて散策するには最適である。

もう一地域、紹介しておきたいエリアがある。今度は、堀江というよりもどっちかというと大阪で言う、靭公園っぽいかもしれない。仙台駅から真っすぐ続く青葉通を約10分歩き、少し北に入ったところにある「肴町公園」周辺。都市公園にはリスだけでなく人も群がる、ということで公園はどの地域でも注目すべきランドマークの一つだが、仙台の数ある公園のなかでも、比較的小さな「肴町公園」の周りはイイ感じに洒落たエリアになっており、市内を一区切りさせる大きな公園「大町西公園」までの間に薄く広く、散策すべき店舗が広がっている。古着屋でいうと、かなり西公園寄りになるが『Beagle』というお店があり、人気Youtuberも仙台を代表する店舗として訪問していたし、実際行ってみても個性的な古着が多かったので、ここはマストの重要な店舗であると感じる。

また個人的に良く行く、コーヒーと、店内選曲が最高な『Echoes』というお店があったり、グッドミュージックのDJも楽しめる『Waltz』というベトナム料理居酒屋があったり、雑貨屋やご飯屋さんも充実している。全般に少し緩い大人の洒脱さを感じられる空気感なので、ぜひリラックスした気分で訪れて欲しいエリアでもある。

とここまで、「堀江」っぽさということで書いてきたがいかがだったろうか?少しは関西人の貴方にも、仙台を身近に感じて貰えただろうか。

仙台は駅から続く商店街のインパクトが強く、これは大変素晴らしいことなのだけれど、商店街の公共的側面に気持ちをやると、その多層的な構造に目がいかない可能性がある。一つ路地を入り、小さなビルの二階に行き、10分離れた公園周辺を歩く。そうしないと見えてこない街の景色はたしかにあり、少なくとも我々の好きな文化はそうした場所に流れ込み易い。なんの因果かここに住む人間として、いつか貴方が旅行してくるとき、辞令がくだり転勤してくるとき、好きな人と一生の住処を決めるとき、土台を積み上げるためのブロックくらいは用意しておきたい。

そう思い、これからも関西人の貴方のために、ここで感じたことを記載しておきたい。関西ソーカルin仙台、つづく。