映画「大阪物語」

今作は「関西ソーカルvol.2」に収録されたものの再掲載です。

「美少女を愛するという事実のみによって辛うじて映画を愛する私は」

 

こんにちは。関西ソーカルのコンビのうち、映画の連載のないほうの私、ジンノが「俺にも語らせろ!」ということで強引にスペースを割かせていただきます。といいつつ、今回語る映画はちゃんと関西ソーカルのテーマとも重なっており、まあそれはネタバレしてしまうと当然で、なぜかというと自分の数%はこの映画でできていると言っても過言ではない、そういう映画を紹介したいと思います。

 

それが今作「大阪物語」(1999)

僕はこの映画を、中学時代おそらく映画館で4回?位は見て、当時神戸に住んでいた自分が大阪のテアトル梅田まで道に迷いながら歩いたり、映画のレンタルが始まると、まあ、数十回は見ました。そしてその店販売のビデオものち買いました。しかし、なんで今作は未だDVD化されてないんだ!DVD化しろよ!(注:これを執筆した時点ではされてませんでしたが、昨年発売されました!祝!)だったりするのですが。

主役は池脇千鶴、今作の監督でもある市川準が演出していた「三井のリハウス」のCMで、いわゆる「リハウスガール」としてデビュー。これは、かつての宮沢りえから、最近は夏帆までまあ、美少女の登竜門と言えるデビューですね。ちなみにこれは当時のオーディションバラエティーASAYAN(アサヤンっていうのは元々浅草橋ヤング洋品店ってファッション番組だったのが、江頭とかが出る芸人エクストリーム番組になった後、オーディション番組になって鈴木あみとか、モーニング娘。とか、YURIMARIっていうアイドルグループでいまは女優になってる中村ゆりとかを排出する番組になったんですよ。って平成生まれの人に説明するつもりで語ってるんですが多分さっぱりわからないと思う)」でオーディション時から放送されていたんですけど、もう完全に惚れ込んだ市川監督の肝いりデビューで、まあその勢いで「主演映画を撮る!」ってなったんだと思います。

そして端的にいうと、中学時代の僕は池脇千鶴が大好きでした。あのなんていうですか、かわいい声から出てくる関西弁のギャップとかに完全にイカれてしまい、当時彼女の出ている全雑誌とかを買ったりして。ここで、「関西ソーカル」まで至る雑誌への偏愛が生まれるわけですね。最新作「そこのみにて光輝く」も評判もすごく良くて、見に行きたいですね。

ちなみに当時はモーニング娘。が出てくるまではアイドル冬の時代で、厳密に言えばモーニング娘。が出てきた後もそれ以外は冬だったわけですが(アイドルブーム後にデビューした森高千里もですけど、zetimaはなぜかそういう越冬する能力に長けている事務所ですね)90年台後半〜ゼロ年代というのは美少女は歌番組やドラマなどTVメディアにでることができず、映画に出ることで存在感を出していた時代といえます。99年の大阪物語はわりとそこら辺の先鞭になった映画ですね。98年の田中麗奈がんばっていきまっしょい」とかもありますし、後述の夏帆天然コケッコー」なんかも含めて。例えばその後出てくる蒼井優なんかは「リリィ・シュシュのすべて」で出てきた当初、あこがれの女優に池脇千鶴の名前をあげたりしてました。それくらい、当時の彼女は(それこそ宮崎あおいなんかと並べてもおかしくないような)存在だったんです。

閑話休題、話の本編に入りましょう。

主人公は霜月若菜15歳。彼女の両親は売れない夫婦漫才をやっていて、その親父が女作るは博打はするわでどうしようもない男の中、一人ぐれることもなく生きています。池脇さんは大体家族に恵まれない役が多いのですが、デビュー作から恵まれません(笑)この両親を演じているのは沢田研二、田中裕子という実際の夫婦。沢田研二ことジュリーはまさにかつての型破りな芸人の生き様を現代で行おうとして、どんどん破滅していきます。カサブランカ・ダンディで「あんたの時代は良かった」と歌っていたように、現代でかつての生き方は通用しないし、かつての夫婦漫才、一郎&ワカナから娘の名前をとったように、昔ながらの漫才のスタイルに固執する彼は売れることもできない。(劇中に、「新しいスタイルで受けて調子に乗っている若手芸人」として千原兄弟がでています。まだジャックナイフの頃の千原ジュニアが!)結果、連れ立った浮気相手に逃げられ、仕事は干され、最終的に失踪をするまでが映画の前半で、ほとんどここまでの映画は彼が中心の一種ピカレスクものになっています。しかし、ダメになっていく芸人の姿って味があっていいですよね。ドラマ「ちりとてちん」で渡瀬恒彦がやってた落語家の徒然亭草若とか、レスラーのミッキーロークとか。

そして映画の後編から、娘若菜が失踪した父親を探す旅に出るという、大阪ロードムービーになっていきます。そしてここから、映画内で登場時はまあ、女の子であった彼女がある瞬間を期に、期に一気に女優として華開く、その瞬間がフィルムに刻まれているのですよ!この映画、いわゆる順撮りという映画の1カット1シーンから順番に取っていくという手法をとっているのですが、こうすることで瞬間瞬間で成長していく女優の成長を記録するドキュメンタリーとして見ることも可能という特性をもっていて、同じ手法で撮影されたアイドル映画としては、原田知世主演「時をかける少女」なんかもあります。そして撮影期間も一年間というたっぷりの時間。おそらくこの映画を見たほとんどの人が、「うわっ化けた!」と思うシーンが一致するほど、この変化は明確に記録されており、それが記録として残っているということに感動します!そして後半、夏のシーン、中古の自転車に乗りながら疾走するシーンでかけられる真心ブラザーズ「ENDLESS SUMMER NUDE」と言ったら!ここらへんの情感にいかに自分が支配されているかとか考えるとものすごいものを感じますね。 少女が大人になるひと夏だけに経験する特殊な時間。そしてそこでだけ会う人やそこで別れる人たち。その特殊な時間を、そこから帰ってこれなくなった人も含めて描いています。僕自身、なぜいまになってもまともな人生を生きずにこんな変なことをしてるのか、という人生の分岐点を考えると「高校の文化祭をサボって池脇千鶴の握手会に行く」という選択をしたからのきがします。

と言いながら、後半、池脇千鶴が開花していくに連れて、映画自体のバランスは少し歪になっています。これは、映画の後半一時間でロードムービーをするという構成にも理由があるのですが、一番は役者と映画の力関係が変わっていることが原因だと思ったりします。役者が映画を食ってしまう状態ですね。本当は後半もあと三〇分位の時間が欲しかった。ただ、それを差し置いても素晴らしい。父親の昔の友だちを尋ねる町のスケッチシーンなんて、みていた中学生当時は登場人物が頻繁に入れ替わってドラマがうまく付随してないな〜とかおもってたんですが、今見ると出演している面々の顔と表情で彼ら一人一人がどんな生き方をしてきたかを如実に語っていることがわかるようになってきました。そういう意味でもこの作品は純然たる「大阪映画」なんですね。

制作は吉本興業。そもそも池脇千鶴は吉本所属で、芸人の親ということで当時の大阪の芸人が大挙して出演しており、前述の千原兄弟や、COWCOW、まだチュッパチャップスだったころの宮川大輔なんかもカメオ出演してて、そこも今見ると「あ!」となったりできます。他にも大阪に縁のある俳優なんかも多数出演していて、スティーブン・セガールの息子とか(藤谷・見参アルチュン!・文子は出ておりません。)町田康!なんかもでてきます。吉本制作、大阪のダメ親父を描くという意味では、ある意味で高畑勲監督「じゃりン子チエ」に近いテイストも感じるかもしれません。そして脚本には犬童一心も参加していて、この池脇・犬童コンビは後に名作「ジョゼと虎と魚たち」を生み出すことになります。とまれ、今作がきわめてエバーグリーンな、傑作であることは間違いありません!そして、本作が30日の深夜2時45分からに関西テレビで放送されるのですよ!みなさん絶対に予約してください!